近づいてはいけない民間療法(補完代替療法)がある――。以前、このコラムでそのような問題点を指摘いたしました。補完代替療法には「健康被害」「経済被害」「機会損失」という三つのリスクがあることをあげたのですが、もしお読みになってなければ、ぜひ目を通してもらえればと思います。「健康食品だから体にいい? お金や命に関わる民間療法も(2020年5月7日https://www.asahi.com/articles/ASN563GM4N56UEHF001.html)」読んだ人の中には恐らく、補完代替療法はやっぱり怪しい・危ないと思った人がいると思います。ところが、一番信頼性の高いと研究と位置づけられるランダム化比較試験で、健康食品や鍼灸(しんきゅう)、マッサージなどの報告件数は年々増加しているのも事実です。このような現状を踏まえ、政府や行政は補完代替療法をどのように捉えているのでしょうか?今回は、国のスタンスについて解説するとともに、最近の国の取り組みについて紹介します。補完代替療法の現状や課題について、国として本格的に議論を始めたのは2012年に厚生労働省が開催した「統合医療」のあり方に関する検討会においてです。なお「統合医療」は近代西洋医学を前提として補完代替療法を組み合わせて患者さんの生活の質(QOL)を向上させるものと位置づけられています。5回に及ぶ検討会を経て公表された資料(※1)では、補完代替療法(統合医療)は玉石混交であり現時点では科学的知見が十分に得られているとは言えないと厳しい指摘を受けています。しかし、利用を制限したり取り締まりの対象としたりという規制ではなく、このような状況下ではあるものの推進していくために必要な取り組みを進めていくことの重要性が述べられています。必要な取り組み、言い換えると現時点で補完代替療法に足りないものとして、以下の2点を挙げています。1 補完代替療法の安全性・有効性に関する科学的知見の収集2 補完代替療法に関する適切な情報発信冒頭で、補完代替療法のランダム化比較試験の報告件数が増加してきていることに触れました。確かに年間1500~2千報の論文が公表されているわけですから、かなりの数だと思うかもしれません。しかし医学分野全体におけるランダム化比較試験の報告件数は年間3万~4万報にも及びます。医学分野全体からみると5%程度で、科学的知見はまだまだ少ないというのが現状です。そのため現在、我が国では、日本医療研究開発機構(AMED)が中心となって、補完代替療法に関する臨床試験の支援業務(※2)をおこなっています。民間療法(補完代替療法)に関してインターネットや書籍などでは、それこそ不正確で怪しい情報があふれています。そのような現状を踏まえ、厚生労働省は、患者・国民及び医療者が補完代替療法を適切に選択できるよう必要な情報を広く発信していく取り組み(※3)を始めています。補完代替療法に関するランダム化比較試験の要約などのほか、情報の見極め方・向き合い方(情報リテラシー)に関するクイズや患者・医療者間におけるコミュニケーションのコツなどが掲載されています。サイトの作成に関わっている一人として、多くの人に利活用してもらえたらえるとうれしいです。[参考資料]※1)厚生労働省「統合医療」のあり方に関する検討会:これまでの議論の整理について. 2013年2月22日(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002vsub.html)※2)日本医療研究開発機構(AMED):「統合医療」に係る医療の質向上・科学的根拠収集研究事業(https://www.amed.go.jp/program/list/14/03/009.html)※3)厚生労働省「統合医療」に係る情報発信等推進事業:「統合医療」情報発信サイト(eJIM)(https://www.ejim.ncgg.go.jp/)