コロナ感染してもさせても補償金 看護学生向け保険に問い合わせ急増


学生のリスクと補償内容看護・福祉系学生向けの保険で、自らが新型コロナウイルス感染したときだけでなく、実習先の患者やスタッフに二次感染させる恐れが生じた場合にも補償する制度に、問い合わせが急増している。看護師や理学・作業療法士などの医療関係技術者、看護専門職を目指す学生にとって、病院や介護施設の臨床現場で学ぶ実習は必須。新型コロナの感染拡大により、実習先から実習生への健康管理や安全対策の要請は一段と強まっており、万一の場合に実習先の損失軽減につながる内容が注目されたようだ。この補償は、一般社団法人日本看護学校協議会共済会(東京都中央区)が運営する学生向けの「Will(ウィル)」。大学の学部や学校単位で申し込み、約25万人が加入している。共済制度、傷害保険、賠償責任保険がセットになっており、本人が感染症にかかった場合は共済制度から、けがをした場合は傷害保険から、「針刺し事故」で検査・予防措置費用が発生した、誤って患者にけがをさせた、器具を壊してしまった、などの場合には賠償責任保険から、見舞金や保険金が出る。掛け金は補償内容によって年3000~9000円(共済制度運営費など含む)。こうした補償は他の医療保険や損害保険にもあるが、同共済会補償事業総括責任者の石井英雄さんは「他の保険にはない特長である『実習中の二次感染補償』に問い合わせが集中している」と言う。学生が感染源となり実習先の病院スタッフや施設利用者などに感染の恐れを生じさせた場合、100万円を限度に少額短期保険で補償する、というものだ。補償内容は、実習先の消毒費用や、濃厚接触者が発症した場合の治療費(新型コロナ感染症は治療費が公費負担のため該当せず)、濃厚接触者に検査をお願いする際の見舞品代や検査で生じた自己負担分など。「学生が実習先で患者やスタッフに感染させても、法的な賠償責任は通常生じない。しかし実習は教育上、重要で欠かせない科目であり、学校側にも学生の健康状態を管理して送り出す道義的責任はある。実習先が被る経済的損失は、学校側が負うべき管理上の責任として補償する」(石井さん)という考えに基づいている。この補償とは別に、学生と濃厚接触した実習先のスタッフの自宅待機に伴う臨時スタッフ補充費用、濃厚接触した患者が入院延長した場合の費用の一部など、1事故10万円を限度に共済制度から見舞金を出している。10年前にインフルエンザやノロウイルスを想定して始めたもので、より手厚くするため3年前に少額短期保険による補償を追加導入したという。二次感染事故による補償は、2019年度では「学生がインフルエンザ感染し実習施設の利用者とスタッフ計92人に予防投薬(約30万円)」「マイコプラズマ肺炎と診断された学生が受け持っていた患者の延長入院費を補償(約2万8000円)」など約100件あった。新型コロナに関しては、本人が感染したケースは5月以降で30件あったが、二次感染は幸い起きていない。ただ今後、感染が爆発的に広がると、本人感染も含め補償総額が膨らむ可能性がある。このため「ワクチンや治療薬ができるまで新型コロナは免責にしようかと悩んだ」(石井さん)が、年間3000~4000人の加入者のインフルエンザ感染に対応してきた実績を基に、大手損保に再保険を引き受けてもらうことで対象にすることにしたという。5月末に新型コロナも補償対象であることを周知。新規加入を前提とした問い合わせが6月以降で93件あり「その半数が、従来は縁がなかった保育系の学校や教育実習の関係者からで驚いた」と石井さん。学生の実習全般がままならなくなっている現状を反映しているとみられ、看護・福祉系以外の臨地実習が必要な学生の加入も学校・学部単位で受け付けるという。【メモ:診療費や補償】 新型コロナウイルス感染症は感染症法で指定感染症に定められており、診断のためのPCR検査費や入院費などは公費でまかなわれ、自己負担はない。民間の医療保険や損害保険には、入院給付金や治療費用補償に対応している商品がある。また、感染と業務との因果関係が認められると(医療従事者は業務外の感染が明らかである場合を除き)、労災保険法に基づき療養費用や休業補償、障害年金などが支払われる。

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