医学部ない明治大がクリニック開設 その狙いとメリットとは…


明治大学(東京都千代田区)が来年1月、大学内に児童精神科などを備えた診療所「明治大学子どものこころクリニック」を開院する。開院は臨床心理学を扱う文学部が中心となった珍しい取り組みで、医療系学部を持たない大学が医療機関を運営するのは異例。カウンセラーを目指す学生の研修環境を充実させる狙いもあり、同大は「精神科医とカウンセラーが対等の立場で患者に向き合う新たなサービスを提供したい」としている。クリニックは来年創立140周年を迎える同大の記念事業としてオープンする。文学部の特任教授で精神科医の山登(やまと)敬之院長と3人のカウンセラーが治療やカウンセリングを担当。診療科目に児童精神科、精神科、心療内科を掲げ、初診は3歳から中学生までを対象とする。発達の遅れや不登校、思春期における悩みなど子供たちの心の問題に向き合い、保護者の相談に応じる。文部科学省によると、医学部や歯学部を持つ大学は大学設置基準により付属病院を置くこととされている。看護師など医療従事者を養成する大学が付属病院をもつケースもあるが、「医療系の学部がないのに診療所を開設している大学は聞いたことがない」(文科省担当者)という。クリニックの最大の特徴は同大にある臨床心理学の研究機関との連携だ。同大は大学院に平成17年度、日本臨床心理士資格認定協会が認定する「臨床心理士」の養成カリキュラムを開設。30年度には大学院と文学部に国家資格「公認心理師」の資格対応カリキュラムを追加し、カウンセラー養成に力を入れてきた。学内には16年度に設置された「心理臨床センター」があり、臨床心理学を専門とする教授や資格を持つカウンセラーが一般の人のカウンセリングを行っている。一方、クリニックは同センターの「精神科医療部門」と位置づけられ、医師の診療は保険適用。センターに通う子供たちは相互利用が可能となる。センター長を務める文学部の伊藤直樹教授は「これまで精神科医療が必要なお子さんには、外部の医療機関を紹介してきたが、情報共有やその後のフォローが難しかった。同じ学内にクリニックがあることで、精神科医とカウンセラーが治療方針の検討をともに行える。子供たちの心を第一とした医療の提供を目指したい」と抱負を語る。心に問題を抱える子供は全国的に増加傾向にある。文科省が全国の小中高校などを対象に実施した令和元年度の問題行動・不登校調査によると、不登校の小中学生が前年度より約1万7千人増えて18万1272人になり、過去最多を更新。学校に派遣されるスクールカウンセラーの重要性が増している。同大でもスクールカウンセラーを目指す学生は多いといい、学内に子供専門の精神科クリニックがあるのは、学生にとっても適した研修環境といえる。山登院長は「最近、発達障害と診断される子供が増え、学校の先生も保護者の方も、精神科医が扱う『ADHD(注意欠陥・多動性障害)』などの診断名を多用するようになっているが、子供たちの心は一人一人異なり、学生には子供たちを記号で判断するようになってほしくない。学生が、子供の心と向き合うことの大切さを学べるように、医師とカウンセラーが互いの専門性を踏まえ、よく話し合いながら診察にあたるクリニックを作りたい」と話している。 (文化部 篠原那美)

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