医師不足を解消するため、宮崎大学は2022年度から、県内で働くことを前提にした医学部の「地域枠」を15人増やして40人(現行25人)にする。県医師会、県、県教委と計4者で26日に「県医師養成・定着推進宣言」に署名し、大学の方針を明らかにした。医学部には現在、県内の現役高校生だけが受験できる地域枠(定員10人)と、県内の既卒(浪人)1年目と県内の小中学校出身で全国の高校に通う現役生を対象にした地域特別枠(同15人)がある。いずれも、臨床研修や専門研修、実務などで9年間の県内勤務が求められる。9年のうち4年は、医師の少ない地方(宮崎市を含む宮崎東諸県医療圏以外)での研修や勤務が条件になっている。宮崎大学は22年度入学者から、地域特別枠を廃止する。県内の現役高校生向けの地域枠は定員10人のまま「地域枠A」に改名し、県内の高校既卒2年目までが受験できる「地域枠B」(定員15人)、全国の高校既卒2年目までが受験できる「地域枠C」(同15人)を新設する。改編により、医学部全体の定員は110人から10人減の100人となる。県によると、21年度に県内医療機関で臨床研修を開始する医学生の数は、10月現在で過去最多の63人。しかし、県が人口などから目標にしている80人には届いていない。県の担当者は「(受験の改編で)県内の若者が県内で医師になる機会は増えるが、効果が出るまでには8、9年かかる」としている。県内では医師不足に加え、医師の偏在の問題も抱える。宮崎大、県医師会、県は、医師が宮崎市周辺に集中する傾向を解消するため、昨年度に「県キャリア形成プログラム」を策定。能力向上を目指す若手医師の希望を尊重しつつ、医師不足地域を念頭に置いた勤務ローテーションの実現を目指している。宮崎大の池ノ上克学長は「宮崎では、へき地などで求められる総合診療医としての基本的技術から専門分野まで幅広く学べる。各機関との協力で地域医療の担い手につなげたい」と話している。(菊地洋行)◇宮崎県内の医師不足は深刻だ。厚生労働省が昨年公表した医師偏在指標では、都道府県別で32番目の「医師少数県」とされた。今回の宮崎大学医学部の地域枠拡充は、県キャリア形成プログラムと連動する。「医師の県内定着を図る大きな柱」として、関係者の期待は大きい。だが、実効性が出るまでに数年かかるうえ、地域枠の医学生が他県に流出しないよう入念な意思確認やフォローも必要になる。医師の地元定着とともに、偏在の解消も急務だ。厚労省の指標を全国335の二次医療圏ごとに見ると、宮崎東諸県が24位だったのに対し、西都児湯(310位)、西諸(273位)、日向入郷(259位)、延岡西臼杵(229位)は医師不足が顕著だった。西都市の西都児湯医療センターや日向市の市立東郷病院では、市民から医師不足を不安視する声も出ている。宮崎大や県が、医学部地域枠の学生に宮崎東諸県以外での研修や勤務を求めるのも、そうした地域間格差を埋めるのが狙いだ。県などは、県内への就職支援をする「みやざきドクターバンク」をつくったほか、各種学会に出向いて医師の県内誘致PRにも努めている。だが、他県の自治体も同様の取り組みをしていて、「地域ごとのパイの奪い合い」(県医療薬務課)は今後も続きそうだ。(佐藤修史)