マイナ保険証にガッカリ「意味ないじゃん」 役立つはずの「データ」さえ…薬局では患者も薬剤師も「?」の始末


いまだに現行の現行保険証の廃止には、不安や疑問がくすぶる。それでも12月廃止を目指す理由について、政府は「医療の質の向上につながり、その効果の早期発現のため」とし、マイナ保険証のメリットを強調する。しかし、医療現場や患者からは懐疑的な声も聞こえる。取材を進めると、「効果の早期発現」どころか、メリットを享受できるだけの態勢整備が追いついていない現実が見えてきた。(長久保宏美)政府が、マイナ保険証のメリットに挙げるのは、患者が同意すれば、医師らが過去の診療歴や処方歴を確認できるという点だ。厚生労働省は「正確な情報に基づいた総合的な診断を受けられる」とメリットを強調。過剰投与や不要な診療を防げるとしている。ただ、厚労省の言うところの「正確な情報」が、1カ月以上前のデータというケースがほとんどだ。レセプト(診療報酬明細書)という医療費のデータを基にしているためだ。レセプトに基づく情報は、診療を受けた翌月の11日以降に更新される。そのため情報が反映されるまでに、どうしてもタイムラグが生じてしまう。「マイナ保険証持ってても意味ないじゃん」。神奈川県内の薬剤師は、患者から、こうした不満をぶつけられた経験がある。「新しいデータが表示されるのは1カ月以上先なので、直近の情報を把握するには、今まで通りお薬手帳も必要になる」この薬剤師は、患者にマイナ保険証の利用を勧めながらも、自分でもメリットを図りかねているという。東京新聞にも、利用者から「古い情報にメリットはあると思えない」「お薬手帳で十分」といった声が数多く寄せられている。東京新聞が6月に「ニュースあなた発」でつながる読者らに行ったアンケートでは、マイナ保険証を使わない理由について「メリットを感じない」と答えた人が、「情報漏えいが不安」や「従来の保険証が使いやすい」と並んで数多くいた。【関連記事】ある透析患者は「病状が悪い人ほど薬は頻繁に変える場合が多いのに、1カ月後にならないと反映されないのでは役に立たないどころか、問題が起きる可能性が高い」と疑問視する。リアルタイムで医療情報が共有できるよう、厚労省が、マイナ保険証との連携を進めているのが「電子処方箋」だ。医師が処方した薬の情報をサーバーを介して、薬剤師が取得し、調剤する。サーバーに登録した情報は、患者の同意があれば、医師も薬剤師も共有できる。レセプトと違い、直近の処方や調剤の履歴も確認できる。ただし、電子処方箋の普及は進んでいない。厚労省によると、9月1日時点の導入状況は、薬局で40%を超えるものの医療機関全体では14.6%にとどまる。ネックの一つはコストだ。さいたま市で診療所を営む山崎利彦院長は「業者から見積もりを取ると、システム導入に三十数万円、毎月のメンテナンス代に6000円以上かかると聞き、二の足を踏んでいる」と明かす。医療のデジタル化に詳しい医療関係者は「フォーマットが病院のシステムと異なると、電子処方箋のサーバーに新たに患者の氏名や薬剤情報を、その都度、手作業で入力する手間がかかる」と、使い勝手の悪さも指摘する。しかも、電子処方箋のような医療情報を確認できるアプリは、すでに大手薬局チェーンでも導入されている。神奈川県の団体職員の男性(63)は「マイナ保険証でなければならない理由が分からない」と話す。厚労省は、医療デジタルトランスフォーメーション(DX)の重要な柱の一つとして「電子処方箋」を位置付け、2025年3月までに「概ね全国の医療機関・薬局に普及させる」ことを目指している。電子処方箋が行き渡るまで、現行の保険証を存続させるという発想は、政府になかったのだろうか。この問題に詳しい国会議員は、「厚労省はそもそも保険証の廃止に後ろ向きだった。それをマイナンバーカードの普及を急ぐ閣僚が期限を切っての廃止に踏み込んだ。これは政治判断だ」との見方を示した。◇東京新聞では、マイナ保険証に関する情報やご意見を募集しています。メールはtdigital@chunichi.co.jp、郵便は〒100-8505(住所不要)東京新聞デジタル編集部「マイナ保険証取材班」へ。

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