<フロンティア発>がん治療試験 使うは「便」


国内で初めて、うんち(便)を使って、がんの治療を目指す臨床試験が8月、国立がん研究センター中央病院(東京都中央区)で始まりました。取り組むのは、同病院と順天堂大など。健康な人の便から採取した腸内細菌の集まり「腸内細菌叢(そう)」を、食道がんと胃がんの患者の大腸に移植し、治療薬の有効性を高めるかどうかを調べます。私たちの腸の中には約千種類、40兆個以上に及ぶ細菌が生息しています。その集団が腸内細菌叢で、腸内フローラとも呼ばれます。一方、私たちの体を細菌やウイルス、がん細胞から守る仕組みが、「免疫」です。免疫は、腸内細菌叢と関わっていることが近年、分かってきました。順大は2014年から潰瘍性大腸炎の患者に、腸内細菌叢を移植する臨床研究を開始。これまでに患者240人以上に移植し、7割の人の炎症が改善しています。また海外では、皮膚がんの一種・悪性黒色腫のため、がん細胞が免疫から逃れるのを防ぐ薬「免疫チェックポイント阻害薬」の治療を受ける患者20人に、腸内細菌叢を移植したところ、治療効果があらわれた割合(奏功率)は65%だったとの報告があります。移植によって患者の腸内細菌叢のバランスが改善され、免疫が増強されている可能性があるそうです。今回の臨床試験は、食道がんと胃がんを対象にしました。これらのがんは、免疫チェックポイント阻害薬を投与しても効果が上がらない人もいます。「腸内細菌叢を移植することでいかに効果を上げられるかを見たい」と中央病院消化管内科の庄司広和医長は説明します。臨床試験の参加者は最大45人。3種類の抗菌剤を1週間服用してもらい、もともとの腸内細菌叢を十分減らしてから、内視鏡を使って、大腸の奥(盲腸)に健康な人の腸内細菌叢を含む液体を注入します。その後、通院して、基本的な抗がん剤と免疫チェックポイント阻害薬との併用の治療をしていきます。健康な人から提供してもらう便について、順大の石川大・准教授(消化器内科学)は「感染症を防ぐため3回チェックしてしっかり安全性を保つ」と解説します。どの腸内細菌叢が免疫の効果を高めるか、まだ分かっていませんが「腸内細菌叢の多様性を保たせることが重要」と語ります。 (増井のぞみ)

関連記事

ページ上部へ戻る