<フロンティア発>スマホでデジタル治療


スマートフォンを使い病気を治す「デジタル医療」が始まりました。スマホはウイルスを退治したり出血を止めたりはできません。しかし気分転換させたり、心を動かして行動を変えたりすることならできるかもしれません。果たして効果のほどは…。精神科医の上野太郎さんが創業した「サスメド」(東京都)は、不眠症を治療するスマホアプリを開発しました。臨床試験で効果が認められ、2月に国から医療機器の承認を得ました。同社は「今年の夏か秋ごろには保険点数が確定し、医療現場で使われる見通し」としています。患者は9週間、アプリに睡眠の記録などを入力します。アプリからは睡眠や起床時間に関する助言が得られます。もとになっているのは「認知行動療法」です。考え方や行動は、本人次第で変えることができます。アプリとのやりとりを通じ、考え方に働きかけるのです。認知行動療法は熟練した医師が手間をかけて行うため、不眠症においてはコストが高く普及していません。薬を用いるのが普通ですが、副作用などの問題があります。薬を使わず低コストで不眠症を治す可能性に期待が寄せられています。スマホやタブレットのゲームによって子供の注意欠陥多動性障害(ADHD)を治す試みもあります。米国のアキリ・インタラクティブ社が開発し、良好な結果を得て2020年に米国で承認されました。冒険の旅に出て、障害物を回避するとともに、特定の対象物に素早く触れるという二重の課題をこなします。患者ごとに難易度が調整され、遊びながら注意力を育てる狙いです。米国の臨床試験では1日30分ほど、1カ月プレーしてもらいました。国内では塩野義製薬が臨床試験を行っています。同社は「25年ごろ承認を取得し市場投入の予定」としています。ADHDには多くの場合、薬物療法が有効ですが、副作用や依存のおそれがあり「ゲームでよくなるなら…」と関心を集めています。名古屋大と浜松医科大などのチームも独自のアプリ開発に取り組んでおり、年内に臨床試験を始めるといいます。アキリ社は、同様のゲームで、自閉症スペクトラム障害の患者を治療する臨床試験も始めています。推進の原動力は、医療費・薬剤費の削減効果です。最も多くのアプリが承認されているドイツでは、価格が200ユーロから600ユーロぐらいに設定されており、3割負担で1万〜2万円といったところです。国内では、キュア・アップ(東京都)のニコチン依存症治療アプリと高血圧治療補助のアプリも承認されており、さらにうつ病、パニック障害など、続々と開発が進んでいます。 (吉田薫)

関連記事

ページ上部へ戻る