医療的ケア児5人を預かる さいたま「いちご南保育園」 みんな一緒、思い実現


医療的ケアの必要な子どもたちを預かるため、私立認可保育所「いちご南保育園」(さいたま市南区大谷口)は今年4月から、「育成支援保育モデル事業」を開始した。市内で医療的ケア児を預かる保育所は公立も含め初めて。0〜5歳の子ども5人を預かり、1人に1人の担当する看護師を配置した。長時間にわたり付き添いが必要な保護者は休息を取れたり、就業が可能になったという。何よりも集団保育が行われ、「同じ年頃の子たちと一緒の機会を持たせてあげたい」との保護者の思いが実現した。園長で園を運営する社会福祉法人「なないろ会」の理事長を務める三須(みす)亜由美さん(50)は「使命感だった」と振り返る。これまでも医療的ケア児の保護者から相談を受けてきたが、数年前から増加していると感じていた。預け先のない現状に、三須さんは「保護者の負担が重い。お母さんたちの涙を何回も見て、苦しい胸の内を聞いてきた」と立ち上げの理由を説明する。「何とかしてあげたい。できないのではなく、できるにはどうしたらいいか」を考え、3年前から検討を重ねてきた。市や小児医療の専門医らと相談しながら事業を提案。2015年に開園した同園の敷地内に、医療的ケア児のための施設を新設して、今年4月から受け入れを開始した。当初の受け入れは3人の予定だったが、要望を受けて、0〜5歳の男の子1人、女の子4人を預かることにした。病気のため酸素吸入が必要な子、胃ろうが必要な子、たん吸引が必要な子たち。大学病院の小児科で2年以上の経験を原則にして、看護師5人を採用した。担当をそれぞれ決め、看護師が子どもの主治医と相談しながら一人一人のマニュアルを作成して対応する。最も重要なのは保護者とのコミュニケーションで、保護者から要望を聞き、連絡帳に毎日の様子を記録している。日華(にちか)さん(4)は、指定難病の「先天性中枢性肺胞低換気症候群」で、睡眠時に人工呼吸器を装着しなければならず、気管切開をしているため、たん吸引が定期的に必要となる。母親のなづきさん(32)によると、幼稚園に1年間通ったときは、なづきさんが別室で待機して、日華さんのたん吸引などを行っていた。いちご南園での日華さんは、同年代の園児たちと一緒に給食を食べて、部屋を走り回り、絵本の読み聞かせを最前列で聞いていた。友達とお店屋さんごっこや、フラフープで遊んだと、送り迎えをするなづきさんに話してくれるという。現在は先生と一緒にドレス作りにはまっている。なづきさんは「いつも一緒に行動して、家族に任せても気に掛けていた。ここに登園できて自分の時間を持てるようになった」と笑顔で話す。周りにいるのは大人ばかりで、同年代の子のいる園に通わせるのが願いだった。しかし、医療的ケア児を預けるのは困難で、「園に入りたいと思っても言えない。駄目元だった。他にも多くの医療的ケア児がいると思うし、働きたくても働けない人がいる。こういう園がすごく必要。もっと増えてほしい」と訴えた。新型コロナウイルスの影響で、同園も新しい生活様式に合わせて感染防止対策を徹底した。保護者が感染を心配し、5人の医療的ケア児は登園を自粛していたが、登園自粛の措置が解除された6月1日から、全員が登園している。市保育課によると、昨年11月に特別保育事業費補助金の要綱を改正し、「子ども1人に看護師1人の加配」を追加、市は1人につき月額21万6千円を同園に助成している。それでも財政的には厳しく、三須さんは「予算は二の次で、ないものをつくることが大切。保護者の皆さんには喜んでいただいている。市内にいくつかできれば、ありがたい」と話していた。いちご南園は医療的ケア児を対象にした「子育て支援センター」を併設している。専門の看護師を1人配置して、専用電話(電話048・882・1400)で相談や遊び場を提供している。受付時間は平日の午前9時〜午後5時。日常生活の中で人工呼吸器の使用やたん吸引、胃に直接栄養を送り込む「胃ろう」など、医療的ケアを必要とする子ども。医療の発達により、都市部を中心に新生児集中治療室(NICU)が増設された結果、救命される子どもが増えたとみられている。県とさいたま市によると、県内の医療的ケア児は2019年4月時点で推定490人、同市内はそのうち86人。18年度で保育園に登園している医療的ケア児は6カ所で7人。

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