家庭内感染「隔離に限界」家族が経路2割超 子育て中の親は入院ためらい


兵庫県内での新型コロナウイルスの感染経路は「家族」が最も多く、2割超を占める。ごく普通の家庭生活が感染の温床になり得ることが分かった。家族感染で入院生活を送った元患者は「自宅での隔離は限界がある」と指摘。さらに親が感染すると、誰が子どもの面倒を見るのかという切実な課題も解消されていない。(竹本拓也)ドアノブ、床、テーブル…。4月のある日、県内に住む女子大学生は自宅の隅々を拭いていた。同居家族が触れた可能性がある場所を全て消毒するよう、保健所から指示を受けていた。父母、妹の計3人が新型コロナに感染し入院。濃厚接触者の自身のみが残った。PCR検査を希望したが、症状がないことを理由に断られ、そのまま2週間以上の外出自粛が続いた。父親が最初に発熱して以降、家族の食事は別々に。自宅にトイレは一つで、姉妹の寝室は一緒。台所や風呂も共有は避けられない。県が発表した感染者は700人。経路が明らかな538人のうち家族感染は153人で、職場感染(111人)を42人上回った。日本環境感染学会は、感染が疑われる同居者がいる場合、可能な限り部屋を分ける▽全員がマスク着用▽世話をする人は1人が望ましい-などと呼び掛けるが、この家の母親は「誰にも接触せずに過ごすのは不可能に近かった」と振り返る。□   □一方で、入院に懐疑的な家族もいる。「親が共倒れになった場合の子どもの面倒を誰がみるの」。テレビ局社員の夫と、夫婦で感染したフリーアナウンサーの赤江珠緒さんは、感染判明前の手記でこうつづった。2歳の長女の世話をしながら自宅療養を続けていたが、4月29日、出演するラジオ番組の公式サイトで入院したことを公表。赤江さんの率直な問い掛けは、子育て世代の共感を集めた。厚生労働省は保護者が感染し、親族が高齢だったり近くにいなかったりする場合、児童相談所などでの受け入れを想定する。兵庫県も5月から、県内5カ所のこども家庭センター(児童相談所)で子どもを預かる体制を組む。専門職の当番を決め、マスクや防護服、フェースシールドを確保。子ども同士の接触を防ぐためのスペースも設けたが、受け入れに至ったケースはない。背景には「子と離れたくない」という母親の強い意向もある。県によると、1歳児と軽症の母親を引き離さず、母親の療養施設で過ごすことを認めた例もあった。感染リスクを見極めながらの難しい判断が迫られる。■「軽症なら親は自宅療養を」 小児科医会が県に要望書■兵庫県小児科医会は、親が新型コロナウイルスに感染しても軽症の場合は自宅療養を基本とするよう県に要望書を提出した。感染「第2波」への対応策が県から医療現場に明確に示されないことに対する危機感の表れだった。「親と一定期間離れることによる心理面への影響が大きすぎる」。同会の感染症対策委員長を務める小児科医岡藤隆夫さん(53)=姫路市=は児童相談所などでの隔離に否定的だ。子どもは高齢者に比べて感染や重症化のリスクは低いとされるが、第2波の規模は見通せない。親世代の感染が増えると、子どもの処遇がさらに複雑化する恐れもある。岡藤さんは「今のうちに兵庫の対応パターンを確立しなければ、医療現場が混乱に陥る」と懸念する。

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