北九州市の感染「落ち着く傾向」 PCR検査拡充に効果


 新型コロナウイルスの感染再拡大に見舞われた北九州市はこの1週間、新規感染者数がゼロから4件で推移し、「落ち着きを見せつつある」(市の専門家会議)状況になった。この間、市が保健所を通さないPCR検査センターを設置するなどして検査件数を増やしたことが、感染者の早期発見につながったとみられている。ただ秋にはインフルエンザのシーズンを迎えることから現場の医師からは「一層の検査能力増強が必要」との指摘が出ている。

 「検査態勢の拡充は、疑い例をどんどん検査するという現場の変化につながった面もあるのでは」

 福岡県内の病院で勤務する感染症の専門医は、こう指摘する。

 全国で感染が拡大した3~4月、同市でもPCR検査を受けられない状況が起き、高齢施設の入所者が高熱を出したのに保健所に検査を断られたケースもあったという。

 市は5月2日に検査の間口を広げようと、保健所を介さない検査センターを設立。検査を請け負う八幡西区の検査会社「キューリン」は夜間シフトを組み、当初88が上限だった検査数を132にまで増やした。

 5月23日の感染再拡大後、検査センターの実施数は986件(14日時点)に上り、全体(6770件)の約15%を占めた。

 ただ今でも検査までに時間がかかるケースもある。

 10日に陽性が判明した小倉南区の50代女性は、最初の診察から検査まで5日かかった。女性は自家用車を持たず、ドライブスルー方式で自家用車使用が条件の検査センターを利用できなかった。市によると、交通の足を確保できず検査が遅れた例は複数あるという。

 検査時間の短縮に期待されるのが、国が一部での実施を認めた「唾液」検体による検査だ。従来は防護服を着た医療従事者が鼻の奥の粘液を綿棒で採取している。唾液は患者自ら容器に入れることができ、採取や運搬が容易になる可能性があるという。

 秋以降、インフルエンザが流行すれば発熱やせきなどの症状が出る人が増えるため、市は「検査が必要なケースは増える」とみている。このため、市医師会と検査能力をどう拡充するか協議を続けている。

探知不能な感染の可能性 クラスター班

 北九州市は16日、新型コロナウイルス感染再拡大後に現地入りした厚生労働省クラスター(感染者集団)対策班の暫定報告の概要を明らかにした。市内全域で感染経路不明な感染者が確認され、多くが無症状だったことから「顕在化しない探知不能な感染伝播(でんぱ)が起こっていた可能性がある」と指摘。感染が疑われる人などに継続的にPCR検査が実施されており、「市中感染の探知体制は機能していた」と評価した。

 5月23日以降の感染再拡大で高齢者が全体の感染者の63%を占めていると指摘し、介護施設では寝たきりの入所者もいることから「職員による媒介の可能性がある」とした。

 救急搬送で陽性が判明した例は感染経路不明者の31%に上るとした。医療機関での感染拡大については「感染が疑われない状況下で患者から職員、職員から患者への伝播が起こった」と指摘。重症者の増加に備えた医療体制構築や福祉施設での感染対策の教育などを提言した。 (内田完爾)

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