事故から生んだ“魔法の杖” アーティスト楓友子さん(新大出)、妙高で本格販売


新潟大学在学中の交通事故で脚が不自由になった経験を基に、杖(つえ)をデザインする「ステッキアーティスト」として活躍する女性がいる。現在は京都市を拠点とする貫和(ぬきわ)楓友子(ふゆこ)さん(33)で、多彩な装飾で華やかな杖を生み出す。義母が営む新潟県妙高市の店で本格的にPRして売り出すことになり、「自分だけの杖を持って、お出掛けを楽しんでもらいたい」と話している。 楓友子の名前で活動する貫和さんは北海道生まれ。2008年、新大4年のころ、サークルの合宿で斑尾を訪れた帰りに上越市内で交通事故に遭った。中央分離帯を越えてきた車と正面衝突。重傷を負い、約100日間を入院とリハビリに費やす。脊髄神経の不全損傷で右脚には後遺症が残り、杖が手放せない生活となった。 内定していた東京のIT企業に就職後、初めて自分で新しい杖を購入しようと探した際のことを覚えている。渋谷の百貨店で杖が置いてあったのは介護用品売り場。ファッション性より機能が重視された地味なものばかりで「こんなものしかないんだ」と悲しくなった。実際に使っていてもどこか恥ずかしく、写真を撮る際は杖を隠すこともあったという。 そこで髪飾りやキーホルダーを付けるなど自分自身で杖の装飾を始めていく。白木の杖も購入して独学で試行錯誤。試作品を手に歩くと、周囲から掛けられる言葉が「若いのにかわいそう」から「そのステッキかわいい」に変わった。「杖を持つことに自信を持てるようになっていった」 会社を退職後、11年には独自ブランド「ノックオンザドア」を立ち上げ、ネット販売を開始。ステッキアーティストと名乗る。「杖は病気や事故など、悲しいことから使い始めることも多い。心を閉ざしてしまう人にも『こんな杖があるよ』と声を掛けたい」 主に受注生産し、ドイツ製の杖を輸入して塗料を塗ったり、ラインストーンや紙を貼ったりして装飾。細部にまでこだわったデザインは女性から支持され、母親へのプレゼントとして購入する人もいる。「年寄り扱いを嫌がる高齢者にも、この杖なら受け取ってもらえる」という。 自身の事故の経験も今では「ネタ」の一つと笑う。「今が幸せでさえあればいい」。自作のステッキを手元に置き、2人の子を優しい表情で見詰めた。   ×   × 楓友子さんの夫の母親、貫和雪枝さん(70)は妙高市朝日町1の新井駅前の商店街で時計やメガネなどを取り扱う店「よしはら」を営む。以前から楓友子さんの杖を置いてはいたが、今回、パンフレットや看板も新たに作り、徐々に品ぞろえも増やしていく方針という。 新型コロナウイルスの影響で閑散とした商店街。「何かできることはないか」と考えた時に楓友子さんの杖が目に付いた。妙高市の「がんばる企業応援補助金」を利用し、PRに取り組み始めた。 雪枝さんは「人が街に出て来なくなったが、商店街の明かりを消したくない。外に出たくなる“魔法の杖”を知ってもらえたらうれしい」と話している。 問い合わせは同店、0255(72)2621。

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