意思疎通に「触れる」が不可欠 盲ろう者、コロナ禍で苦悩


新型コロナウイルスの流行は、視覚と聴覚の両方に障害がある「盲ろう者」の暮らしにも影を落としている。通訳・介助員のサポートを得てコミュニケーションを取る際、体に直接触れたり、近づいたりしなければならないため、接触による感染リスクを心配して外出を控える当事者も少なくないという。(佐藤健介)神戸市西区の女性(43)は生まれつき耳が聞こえない。また、光を感じる網膜の視細胞が徐々になくなる難病「網膜色素変性症」で、視野が狭く、見えている部分もかすみがかかっている。慣れた場所は移動できるが、暗くなると見えなくなり、通訳・介助員の支援が必要になる。1人暮らしで、買い物や通院など出掛ける際は通訳・介助員がサポート。手を触れ合って手話を読み取る「触手話」や、手のひらに文字を書いてもらうなどして周囲の状況を把握し、意思疎通を図ってきた。ところが、新型コロナ禍で外出を控えるようになったという。通訳・介助員はマスクやフェースシールドを着けて予防策を徹底し、外出支援の依頼を断ることはなかったが、「うつっても、うつしてもいけないと思い、利用をためらった」と女性。一時は1週間ほど家に閉じこもった。「友人と会う機会も減り、孤独で落ち込んだ」盲ろう者との意思疎通には触手話などのほか、耳元や補聴器に向かって話す「音声通訳」▽通訳者が指を直接たたく「指点字」▽手のひらに文字を書く「手書き文字」-といった方法があるが、いずれもソーシャルディスタンス(社会的距離)を取るのは難しい。通訳・介助員の派遣に取り組む「兵庫盲ろう者友の会」(同市中央区)は「通訳・介助員が『触る』『近づく』ことは欠かせないが…」と対応に苦慮している。全国盲ろう者協会(東京)によると、国内盲ろう者数の推計は約1万4千人。コロナ禍で「1人では外出できず家にこもっている」など外出の機会を奪われた当事者から苦境の声が届いている。中には近隣の医療機関でクラスター(感染者集団)が発生し通訳・介助員の派遣を断られたケースもあったという。同協会は「当事者の情報不足を補うため情報通信技術(ICT)の環境整備が急務。会としては、不安を抱えている盲ろう者宅への個別訪問などの支援に力を入れたい」とする。

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