<コロナ禍で保健所業務逼迫>長期戦 柔軟な人員配置を


新型コロナウイルスの感染拡大で、普段あまりなじみのない保健行政に注目が集まっている。最前線で奔走する京都市の保健所を取材すると、健康分野の危機管理拠点としての重要性を再認識する一方、業務の逼迫(ひっぱく)で職員に大きなしわ寄せが生じていることに疑問を感じた。新型コロナとの闘いは長期戦の見通しで、限られた人材を柔軟に配置することが求められる。「第4コーナーまでさしかかり、もう少しでゴールかなと思ったら、またもう1周というのが続いているイメージ」。市保健所のある保健師は多忙を極めた3~4月の心境を振り返る。その言葉には使命感がにじんだものの、充血した目には蓄積した疲れが色濃く出ていた。保健所が新型コロナ対応で担う業務は、感染が疑われる人からの相談対応や受診調整、PCR検査の検体搬送など幅広い。中でも負荷が大きかったのが疫学調査だ。京都市の場合、検査結果が判明する午後6時頃から職員が電話で患者に家族構成や行動歴を聞き取り、終わる頃には深夜になった。当たり前だが、ウイルスに休日は関係なく、職員は土日も出勤し続けた。市保健所の3月の残業は多い職員で251時間に及んだ。集団感染を発生させないためには初動が肝要で、市民の命を守るためにある程度の無理はやむを得ない。ただ、保健所の業務過多は検査数の抑制や入院の遅れにつながる可能性もあり、改善は急務だ。いつ発生するか分からない新興感染症に備え、平時から多くの職員を確保するのは現実的ではないだろう。感染第2波の襲来が確実視される中、組織一丸となって人員を弾力的に運用する方が賢明に思える。京都市は1月30日に初の感染者が確認されて以降、新型コロナ対応の職員を7度にわたって拡充し、2月末の70人を4月末には96人に増やした。最も大規模な増員は同17日の10人だったが、これは京都産業大を由来とするクラスター(感染者集団)や堀川病院(上京区)の院内感染が発生した後であり、後手に回った感は否めない。市は近年、相次ぐ児童虐待への対応強化や健康寿命の延伸のため、保健師の採用を増やしてきた。在籍数は今年4月時点で333人に上っており、ほかの担当からコロナ対応に回せる人材は多い。また市役所内を取材で回っていると、コロナ禍による事業やイベントの中止で手持ちぶさたになった職員は少なくない。病院と電話で行う受診調整や検体搬送など保健師以外でも可能な業務に他部署の人員を割り当て、負担を分散することはできるはずだ。過剰な業務で保健所が追い詰められると市民への情報発信、ひいては社会全体の感染対策の遅れにつながる。第1波の課題を洗い出し、今後に生かす責任が市にはある。

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