濃厚接触者どう分ける 避難所増えれば職員不足


変わる災害避難(中)

 青天のへきれきだった。6月初旬、佐賀県庁であった新型コロナウイルスの県対策本部会議。リモートで視聴していた多久市防災安全課の北村武士課長は、県担当者の突然の話に耳を疑った。「発熱者等専用避難所を開設していただきたい」

 県は新型コロナに対応した避難所の運営マニュアルを説明。濃厚接触者や経過観察中の人を受け入れる専用避難所の設置を市町で検討するよう指針を示した。

 「急にポーンと投げられ、びっくり仰天だった」と北村課長。濃厚接触者への対応は4月から県に問い合わせていたが具体的な回答はなく、県が用意するものと思っていた。

 昨年8月の記録的大雨で多久市は7カ所の避難所全てを開設し、1日最大278人が身を寄せた。ほぼ全職員の200人以上が避難所運営、土砂崩れの確認、要支援者の対応などに追われた。

 「さらに避難所を増やさないといけない。各部署に負担がかかるが、やらざるを得ない」。北村課長は頭を抱えた。

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 大規模災害ではただでさえ人手が不足するのに、さらにコロナ禍が追い打ちをかける。「3密」回避のため通常より多くの避難所が求められ、検温や消毒、間仕切り設置などの業務量が増えるからだ。

 根本昌宏・日本赤十字北海道看護大教授(寒冷地防災学)は「コロナの影響で避難所運営は通常の2倍強の人員が必要になり、基礎自治体だけで対応するのは困難」と指摘する。

 多久市は妊婦▽発熱などの体調不良者▽濃厚接触者やPCR検査結果待ちの人-のため避難所計3カ所を追加。妊婦専用避難所の市保健センターで6月下旬、職員約30人が間仕切りの設置手順などを確認した。

 濃厚接触者の避難所設置には別の課題もある。

 県は「個人情報の扱い方の判断に差が出る」としてコロナの感染者や濃厚接触者の情報を市町には伝えず、県職員が感染症対策を担ってきた。このため市町の職員は対応のノウハウに乏しく「不安はあるし、職員も(感染の)リスクを負うかもしれない」と北村課長は懸念する。

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 さまざまな課題にどう対処するか。武雄市は避難所30カ所に加え、発熱などの症状がある人を待機させるため学校の空き教室約50室を確保。小松政市長は5月下旬の記者会見で「健康な市民には掃除や消毒など避難所運営への参画をお願いしたい」と述べた。

 市民の防災意識を高めるため市は本年度、避難所生活や避難行動計画の作成、コロナ感染対策を伝える出前講座を始めた。「これまで避難者は『お客さん』の扱いだったが、避難が長期化すれば職員を手伝ってもらうこともある」と市防災・減災課の西山丈晴課長は説明する。

 根本教授は県や国から人員や資機材の支援を受けられる体制を整えるべきと強調。「近隣の市町とも人員の割り振り、避難者の受け入れについて事前協議が必要」と訴えた。

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