北アの夏山診療所、開設見送る動き 新型コロナ影響で医療者確保難しく


大学医学部が運営する北アルプスの山岳診療所で、今夏の開設を見送る動きが出ている。新型コロナウイルスの影響で医療者らの確保が難しいことなどが理由。全16カ所のうち少なくとも常念岳(信州大)、蝶ケ岳(名古屋市立大)、奥穂高岳(岐阜大)、三俣蓮華岳(岡山大・香川大)の4カ所は開設を断念。活動を縮小する所もあり、この夏の北アは登山者自身の体調管理が一層求められそうだ。
 山岳診療所は山小屋の一室や併設で運営され、多くは山岳部OBの医師や医学生らが7月中旬から8月下旬、交代で登山者の高山病や捻挫などの治療、山小屋従業員の健康管理に当たっている。
 今夏の開設を見送った各大学はその理由について、新型コロナ対応などで病院業務が忙しい上、休校が長引いて「補講などで夏休みが変則的になり医学生の確保が難しい」(岐阜大)、「診療所が狭く『密』が避けられないため」(岡山大)などと説明。毎年全国のOBに参加を呼び掛けているという信大も「県境をまたぐ移動になるため集まらない」とする。
 昨シーズン、78人を診察したという信大常念診療所長の花岡正幸さん(56)は「登山者の安全確保という社会的使命があり、大いに悩んだ」という。だが、新型コロナ感染の疑いがある患者が出た場合、防護服などを十分確保できず、治療もできないとして開設見送りを決めた。
 松本市山岳観光課などによると、槍ケ岳(東京慈恵医大)、西穂高岳(東邦大)、燕岳(順天堂大)、涸沢(東大)、徳沢(日大)、上高地(東京医大)、白馬岳(昭和大)、鹿島槍ケ岳(千葉大)、双六岳(富山大)、剣岳・雷鳥平(金沢大)は今夏も開かれる見通し。ただ、開設期間やスタッフを縮小する所や、医師が不在になる期間が生じることを想定し、遠隔診療を検討する所もある。薬師岳(日本医科大)は現時点でも未定という。
 北ア南部の山小屋は7月15日から営業再開の予定。開設を見送った常念診療所の花岡さんもウェブ会議システムを使った遠隔診療を検討しているが、例年とは異なる夏山であることを強調。登山者に解熱剤や湿布などを携行することを勧めつつ、「体調が悪い時は絶対入山せず、途中で具合が悪くなったら速やかに下山するよう心掛けてほしい」と話している。

(7月2日)

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