受診控え、経営に打撃 国の病院再編議論に波及


新型コロナウイルスの感染拡大は、地域医療を支える病院や診療所の運営にも打撃を与えた。感染を恐れて、定期的な受診が必要な患者が通院を控えたのが一因になった。医療体制維持に向け、医療機関からは、膨らむ医療費を抑えるために国が促してきた全国の病院の再編・統合議論の進展を望む声が上がる。日本病院会などが公表した病院の経営状況に関する調査結果によると、一般病棟のワンフロアを新型コロナ専用にするなどして病床を大幅に割いて患者を受け入れた339病院のうち、今年4月の医業収益率が赤字になったのは78・2%に上った。医業収入は入院や手術の延期などが影響し、回答した全国の病院約1300施設で前年同期に比べ約1割減少している。「私たちのような急性期医療を担う病院ほど損失が大きかった。患者が受診を控えれば、がんや心筋梗塞といった疾患の兆候を見つけることもできない」と話すのは松波総合病院(羽島郡笠松町)の松波英寿理事長。県内の医師らでつくる県保険医協会が5月に実施した調査では、病院や診療所など423施設のうち4月の診察件数が前年同月と比べて「減った」と答えた施設が9割を超えた。永田正和副会長は「ステイホームを過度に意識するあまり、持病など定期的な診察が必要な人まで医者にかかることを敬遠した」と振り返る。同病院では今も患者が訪れる窓口を透明の遮蔽(しゃへい)板で覆い、職員は顔にゴーグルを装着するほか、病棟の入り口に体温を計るサーモグラフィーを置くなど対策を徹底する。病院を安心して利用してもらえるようにするためだ。緊急事態宣言が全国で解除されて1カ月以上になるが、入院患者に対する家族の面会はオンライン形式に限っている。一方で、感染への不安は根強い。「今も患者が戻りきっていない」と話す多治見市の診療所の男性院長は「規模の大きな病院と異なり、発熱などの症状が出ている患者を診察するための場所を別に用意するといった対策が取れない診療所は多い」と窮状を訴える。車の中で患者を診たケースもあったという。新型コロナによる深刻な事象は、全国の病院を対象とした再編・統合議論のさなかに起きた。昨年9月には厚生労働省が対象となる公立・公的病院として県内9病院を含む全国424の病院名を公表し、地元自治体の反発を招いたが、このうち隔離設備などが整った感染症指定医療機関が24ある。今後は大規模感染症を見越し、議論の再考を迫られる可能性がある。土台となる地域医療構想で、県は2025年の必要病床数を計1万4978床(18年7月時点1万7662床)と設定。急性期病床を減らす一方で回復期病床を増やすといった、機能区分の転換を狙いとする。松波理事長は「陽性者隔離のための措置入院ができるだけの余裕を持たせるといった、病院ごとの役割分担を明確にする議論を加速させなければいけない」と指摘する。県保険医協会の竹田智雄会長は「地域の需要に合った医療体制を見直す好機にすべきだ」と訴える。【地域医療構想】 団塊世代の全員が75歳以上の後期高齢者になる2025年までを目標期間として、各都道府県が推計入院患者数を基に策定した指針。効率性や質の高い医療提供体制の構築を通じて、地域の医療や介護を総合的に確保できるよう促している。

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