“痛みなく履ける靴”届けたい 「誰が」より「質」問うべきでは


靴型装具(下)

 足の病気や障害がある人などが作る靴型装具。不正請求事例を機に2018年、厚生労働省は義肢装具士が作製にかかわったもの以外、公費での助成を認めない方針を厳格化した。

 実際は福岡県大牟田市のNPO法人が運営する「足と靴の相談室 ぐーぱ」など、その資格がなくてもノウハウを習得した技術者が医師の指示のもとに手掛け、保険適用も認められてきた経緯がある。義肢装具士でなければならない論拠は-。この件は、今年5月の衆院厚生労働委員会でも取り沙汰された。

 どこまで医行為?

 具体的に焦点となっているのは、足に触れて採寸し、かたどり、合わせていく「採型、適合」と呼ばれる作業。現行法では、こうした作業のうち、人体に危害を及ぼすおそれがあり、本来は医師や看護師以外は禁じられる「診療の補助行為」(医行為の一部)に該当するものは、義肢装具士が「医師の指示のもと、業として行う」と定めている。

 ただ足のトラブルはけがや病気だけが原因ではなく、生まれついた障害によるものもある。具体的にどこまでが「医行為」に当たるのか、判断は難しい。

 答弁した加藤勝信厚労相は、まず「治療が必要な患者に行う場合は、医行為に該当する」と言明。医療保険が適用される「治療用装具」として作るのなら、義肢装具士の資格が必要、との認識を示した。

 一方で「治療までは要しない人や治療が完了した人に日常生活の補助などのために作るなど、医行為に該当しない場合もあり、無資格者であっても適法に行われてきた」と言及。少なくとも障害者の自立支援給付の対象となる「補装具」であれば、資格は問われない、とも受け取れる。

 同省は「補装具も診療の補助行為に該当する制度。現時点でルールを変える考えはない」(自立支援振興室)としているが-。国や県、市側と協議してきた「ぐーぱ」の地元大牟田市議の古庄和秀さん(47)は「大臣答弁により、障害福祉サービスの補装具については却下の根拠がなくなった。このままでは各地の自治体も混乱しかねない」と指摘。判断の撤回と支給を求めていく考えだ。

 法に沿って研さん

 もっとも義肢装具士たちには長年、法にのっとり、靴型装具を作り続けてきた自負がある。

 「患者が診療を受けて作る以上、やはり義肢装具士が手掛けるべきだ」と強調するのは一般社団法人・日本義肢協会の九州沖縄支部長、二宮誠さん(61)。

 「昔は義肢装具士がいない事業所も多く、医者もよく分からないまま保険適用を認めていた例があった。不正に歯止めをかけるため、国家資格者が関わる仕組みを作り上げてきた背景や経緯も理解してほしい」

 二宮さんは長崎市の義肢装具製作所を経営。26人の義肢装具士が所属する。

 「義肢装具士の養成校で座学や実技を学んだだけで、靴を作る技術が身に付くわけではない」ものの、ベテランに学んだり、学会で研修を受けたり「培ったネットワークを元にそれぞれ自己研さんを重ねている」という。「装具士に対する目も厳しくなっている」からこそ有資格者も技術や「質」の向上に余念がない。予防のために助成

 「靴型装具を作る責任を、スキルアップも含めて義肢装具士に“丸投げ”している仕組み自体が疑問です」。大牟田市立病院の前形成外科部長、春日麗(うらら)さん(54)は医療者の立場から、そう問題提起する。

 患者の靴型装具づくりにかかわって約10年。「作ったものが合わず、履かないまま足が悪化し、歩けなくなって社会とのつながりが絶たれる人」を何人も見てきた。「装具の延長線上として提供される靴」に限界を感じており、助成の対象にするかどうかは「できあがった靴自体が本人にふさわしいかで判断されるべきでは」。「誰が」ではなく「作られたもの」を問うていく仕組みを求める。

 「足の健康は普段履いている靴に左右される。治療が必要になった人への助成ではなく、疾患を未然に防ぐ機能がある『健康靴』の普及や提供を後押しするような施策も検討してほしい」。医療費抑制のため国の施策は「治療」から「予防」の流れ。公金支出のあり方についても、発想の転換が必要だと考えている。

 業種や立場は異なっても「痛みなく履ける靴」を届けたい思いは同じ。何より使う人々の「利益」を優先し、安心を守っていく仕組みを追求してほしい。 (編集委員・三宅大介)

 【ワードBOX】義肢装具士
 1987年に制定された義肢装具士法で「免許を受け、医師の指示のもと、装具を着ける部位の採型、装具の製作や適合を行うことを業とする者」と規定。採型、適合は「診療の補助として行うことができる」としている。養成校に3年間通うなどして国家資格を取得し、全国ではここ30年で約6000人。主に義肢装具製作所などに勤務し、医師や患者と相談して業務を行う。

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