院内感染対策 担当医師「基本の徹底」を 和歌山


新型コロナウイルスの感染拡大で課題の一つになったのが、全国各地で確認された院内感染だった。感染症指定医療機関として、25人の患者を受け入れた日本赤十字社和歌山医療センター(和歌山市)では、二重三重の対策により院内感染が発生しなかった。対応にあたった医師は「基本の徹底」を強調する。同センターには5人の感染症専門医や、感染管理認定看護師ら専門家から作る感染対策チームがある。新型コロナ対策では、陽性患者の受け入れだけでなく、地域医療機関の指導的役割を担った。対策チームの中心が、感染症内科部長の古宮(こみや)伸洋医師だ。2012年から同センターで勤務。国立感染症研究所での勤務経験があるうえ海外での感染症対策経験も豊富で、14年には西アフリカでエボラ出血熱、17年にはソマリアでコレラの感染拡大防止活動に従事した。院内で新型コロナ対策を始めたのは、1月の上旬から。中国・武漢で感染が広がり始めたころに、古宮医師は、これまで共に仕事をしてきた世界各地の感染症専門医らから、感染の流行状況やウイルスの性質などの情報を集めた。院内で情報を共有するだけでなく、1月下旬には県内の医療機関を招いた勉強会を実施。消毒や隔離の方法など、感染防止対策に必要な知識を伝えた。同センターでは2月中旬から県内の陽性患者63人のうち、25人を受け入れた。院内感染防止のため、感染症の病室への入室には、①感染症病室のあるエリアに入るドア②防護具を脱ぎ着する部屋に入るドア③病室に入るドアと三つのドアを通過する必要がある。空調や排水が独立しているため、感染症病室から外へウイルスが漏れない構造になっている。陽性患者や感染した疑いのある人に接する時は、使い捨てガウンやゴム手袋、ゴーグルなどを装着する。感染症病室に入るために何度も脱ぎ着する必要があり、ウイルスに汚染された場所を触ってしまう可能性もある。感染を防ぐため、2人1組になって手順を確認するなどの対策をとった。また、来院者には検温を実施し、院内で少しでも疑わしい患者がいた場合は、すぐに感染症内科へと連絡するようにした。古宮医師は「新型コロナの対策も、(他の感染症と比べて)特別なわけではない。基本の周知、徹底が重要だった」と振り返る。新型コロナについては、感染者に対する偏見も問題になった。患者が退院後の生活に不安を感じないよう、メンタルケアを専門にするスタッフが支えた。西アフリカでエボラ出血熱の対応にあたった時も、感染者に対する差別に直面した古宮医師。現地では、回復した人と共に元の居住地に付きそうスタッフがいて、近隣住民に正しい知識を伝えたという。「人はよくわからないことに不安になる。正しい知識を得ることが大事」緊急事態宣言は解除されたが、感染の第2波、第3波の懸念はなくならない。古宮医師は「このウイルスとは年単位で向き合う必要がある。医療機関だけでなく社会全体が、ウイルスの存在を意識した生活や態勢を維持する必要がある」と語った。(藤野隆晃)

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