面会制限、小児病棟の苦悩 コロナ禍「親子分離」懸念


闘病中の小児入院患者が、新型コロナウイルスの影響で家族らと面会しづらい状況に置かれている。ウイルス侵入の防止で、面会や付き添い宿泊を制限する小児病棟が多いためだ。一般病棟でも同様の制限はあるが、子どもは「親子分離」による心身の影響が大きく、保護者の負担も重い。医療現場はオンライン面会などで工夫している。「ママ来れないの?」。6月上旬まで約半年間、国立成育医療研究センター(東京・世田谷)に小児がんの治療で入院していた男児(6)は、仕事帰りに面会に訪れた父親(32)に寂しそうな顔を見せた。同センターは感染拡大を受け、面会時間を一時、午後6時~9時に限定し、付き添い宿泊も中止。一時退院での外泊も難しくなった。田中恭子・こころの診療部長は「闘病中に急に親子が切り離されると、小児にトラウマ反応が出ることがある。2000年代以降、小児病棟で面会を幅広く認める流れが定着しつつあったが、新型コロナで状況が一変した」と指摘する。同センターでは無線LANを提供し、タブレット端末で親子らがテレビ電話できるようにした。ソニーの協力で「窓」と呼ばれる大型4K画面を病棟内に設置。ほぼ等身大での「バーチャル面会」実験も始めた。■9割超が規制面会や付き添いを制限する動きは各地で起きた。日本経済新聞が5月中下旬、全国の主要127施設を対象に行ったアンケート調査(84施設が回答)では、面会中止が17施設(20.2%)、制限強化が62施設(73.8%)と9割超が面会を規制した。付き添い宿泊も37施設(44.0%)が制限・中止した。病棟のプレイルームの利用を中止したのは17施設(20.2%)、利用制限したのは29施設(34.5%)あり、遊びの場の提供にも影響が出ていた。低出生体重児などが入院するNICU(新生児集中治療室)では親子が切り離されると、親が母性・父性意識を十分確立できず、退院後の育児などに支障が出る懸念がある。北野病院(大阪市北区)では子どもの様子を写真や動画で撮影し、USBメモリーで保護者に渡す取り組みを3月から始めた。水本洋医師は「一時は母親も含めて面会を禁止した。不安から号泣する母親もいたが、動画を見てもらうことで親子のつながりを感じてもらいたい」と説明する。4月中旬に母親の面会は一部緩和したが、父親や祖父母、きょうだいの面会禁止は続いている。水本医師は「コロナ対応で急きょ始めたが、動画提供は家族支援策として有効。親子を支える看護師らのモチベーション向上にもつながった。ケガの功名ではないが、コロナが終息しても取り組みを続けたい」と話す。聖隷浜松病院(浜松市)もNICUでの面会制限は「家族が生まれた赤ちゃんを受け入れる過程や愛着形成が阻害」されると危惧。医療スタッフ同士が感染管理と両立できる方法を議論し、オンライン面会を導入したという。2週間以上の長期入院する患者に付き添う保護者にPCR検査を実施したのは東京女子医大病院(東京・新宿)だ。費用は病院負担で、月数十人を検査。これまではすべて陰性だった。同病院の佐藤孝俊助教は「移植手術などで免疫が低下している患者も多い。ウイルスに神経質にならざるをえない」と強調。成人患者と異なり「幼い患者の長期入院では、保護者の付き添いが必要なケースがある」と検査の意義を語る。■保護者もケア保護者側の負担も大きい。付き添い宿泊できる人物を一人に限定する施設が多く、家事などで家に帰宅したり、外食したりすることも制限するケースがある。交代や休息ができないまま付き添いを続ける保護者もおり、疲弊が深刻だ。長崎大病院では付き添いの保護者向けに院内食堂からの「出前」を可能にした。「以前から付き添い者の食事確保は課題だった。流行が終息しても、何らかの形で出前を継続することを検討している」という。聖路加国際病院(東京・中央)は面会などの制限を最小限にとどめている。成人患者の面会は全面的に禁止し、着替えも宅配で届ける徹底ぶりだが、小児病棟では、面会を一部認め、付き添いも中止しなかった。小沢美和・こども医療支援室長は「ウイルス持ち込みを防ぎつつ、どうすれば面会などを続けられるか常に議論した」と明かす。入院する子どもには、外出できない代わりに廊下を散歩してもらっている。廊下に貼った動物の絵などのシールを探す遊びも始めた。テレビ会議で入院する子ども同士が交流したり、音楽療法士が曲を演奏したりする取り組みもある。それでも、できる遊びは大幅に減った。小沢室長は「注射や点滴などを受ける子どもに『治療頑張ったら、遊ぼうね』などと声かけすることも難しい。治療に集中できない子も増えた」と影響を指摘する。■解除時期「未定」が8割日本経済新聞の調査では、小児病棟で面会や付き添いなどの制限を解除する時期や条件も尋ねた。解除時期は「未定」が73施設(86.9%)と大半を占め、「6月中」は3施設(3.6%)にとどまった。解除の条件を複数回答で尋ねたところ、「地域の感染が終息」が32施設(38.1%)、「緊急事態宣言の解除」が16施設(19.0%)と多かった。PCR検査や抗原検査などで面会者や付き添い者の感染状況を把握することを条件として選んだのは9施設(10.7%)だった。国立成育医療研究センターの田中恭子部長は「治療薬やワクチンが開発されるまで、当面こうした状況が続くことも想定すべきだ。親子分離で治療を頑張れなくなる子が出ないよう、子どもに安心感を与え、家族とのつながりを保つ取り組みを、各病院が工夫する必要がある」と話している。(倉辺洋介)

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