重要度増すモバイルファーマシー 被災地で活躍、感染防止も


西日本豪雨のような大規模災害に備え、車内で薬を調剤できる車両「モバイルファーマシー(移動薬局)」の導入が進んでいる。被災者に薬を処方するだけでなく、衛生管理にも詳しい薬剤師が避難所で活動する拠点にもなる。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぎながらの避難所運営が求められる今、改めて幅広い役割が期待されている。平成30年7月11日。西日本豪雨による土砂崩れで一時「陸の孤島」になった広島県呉市に、同県薬剤師会の薬剤師3人が乗ったモバイルファーマシーがフェリーで運び込まれた。その後約1カ月間、同市内の避難所で活動。滋賀県や宮崎県などから派遣された薬剤師らと、被災者を支援した。一般的なモバイルファーマシーはキャンピングカーを改造し、300~500種類の医薬品が収納できる錠剤棚のほか、薬を保管する保冷庫、電子てんびんなどを設置。発電装置に加え、トイレなどの生活設備も備えている。開発のきっかけは東日本大震災。被災地での医薬品不足に加え、支援物資として医薬品が避難所に届いても、調剤できる環境がなかったことから、宮城県薬剤師会が24年に初めて導入した。日本薬剤師会によると、モバイルファーマシーは現在までに16都府県で計17台が導入され、各薬剤師会や薬科大学が保有したり、民間企業と災害時に使用する協定を結んだりしている。28年の熊本地震でも出動した。移動薬局という名の通り、被災者に必要な薬を処方するのが主な目的だが、日本薬剤師会の常務理事、豊見(とよみ)敦さん(46)は「薬剤師の活動拠点ができることで、避難所の衛生管理でも大きな役割を担える」と強調する。薬剤師の仕事場は病院や薬局だけではない。例えば大学以外の学校は「学校薬剤師」を置くことが法律で義務付けられているが、学校薬剤師は専門知識を生かし、飲料水の水質や、教室で清潔さが保たれているかの点検を担っている。新型コロナウイルスの感染予防対策でも、国は学校での消毒方法について、学校薬剤師らと連携して行うよう求めている。豊見さんは広島県薬剤師会の副会長を務め、西日本豪雨の際は被災地での支援活動に当初から参加。避難所に着くとまず、食中毒などを防ぐためトイレやベンチなどの消毒から始めたという。避難者がインフルエンザを発症し、保健所から避難所の窓を開けるよう指示が出た際は、「周辺で土ぼこりが舞う中、窓を開けるのは危険」と考え、エアコンや換気機器の性能を確認した上で、窓を開けなくても清潔な空気は保てると判断。結果、感染は広がらなかった。

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