焦る医学生 コロナ禍で臨床実習できず「将来に不安」


新型コロナウイルスの感染拡大防止で大学のオンライン講義が広がる中、進級や国家試験を控えた医学生らが不安を募らせている。将来の医師として不可欠な臨床実習を十分に受けられないためだ。国や大学は実習時間が短くても単位認定する方針だが、「研修医として働けるのか」と悩む学生も少なくない。「本来なら今ごろは実習で患者の相談に乗っているはずだった。治療方法を分かりやすく伝えられる医師になれるよう、経験を積みたかったのに……」。都内の私立医大5年の戸田さや香さんは悔しそうにこう語る。内科の臨床実習で学ぶはずだったが、新型コロナの影響で、今は自宅での自習がメイン。実習の代わりに、胸の痛みや頭痛についての課題がオンラインで毎朝提示され、夕方には小テストを受ける日々が続く。臨床実習は7月下旬からようやく始まるが、スタートが遅れた分、6年生になってからのカリキュラムが一部変更されるなどの影響が出るという。感染の「第2波」が起きれば、臨床実習期間はさらに短くなりかねない。「(コロナ禍による中断で)身につけられなかった技能や経験が将来、医師としての力量にどれほど響いてくるか不安」と話す。医学部のカリキュラムの大半は文部科学省が全国共通の内容を定めている。病院での臨床実習もその一部で、医学生は知識を増やすだけでなく診療や患者へのケアの経験も積む。患者の状況を口頭で医師らに伝えたり、緊急性の高い患者への初期対応を担うこともある。内科や救急科などの「必ず経験すべき診療科」も指定されている。厚生労働省などによると、臨床実習は4年生の後半から6年生の前半にかけ平均2千時間ほど行われる。医学生は臨床実習を終えた後、大学の卒業試験に合格すれば、医師免許を得るための国家試験を受験できる。文科省は実習が中止されたり授業期間が短縮されても、必要な単位を履修した卒業生には国家試験の受験資格を認めると説明している。だが医学生らの不安は拭えない。新型コロナの影響で困窮した学生への支援を求めてきた「高等教育無償化プロジェクトFREE」が5月にまとめた調査によると、回答した医学生224人の9割がオンライン授業を受講。「実技を学ぶ時間がなく、来年から研修医として働けるか不安」などの声が寄せられた。大学側も臨床実習に代わる環境づくりを試行錯誤で進めている。名古屋大は病院での臨床実習を中止している間、ビデオ会議サービス「Zoom」などを通じて教員と医学生が患者の症例などを議論する授業を診療科ごとに始めた。6月15日からは、臨床実習を段階的に再開し始めたが、感染した際に重症化するリスクが高い患者を診る血液内科などの診療科では、引き続きオンライン講義などを実施しているという。総合医学教育センター長の錦織宏教授は「臨床実習の期間は、医学生が医師の顔つきに変わる重要な時期。学生が学び続けられるよう方法を考え続けるしかない」と話す。そのうえで、夏休みや卒業後の研修医の期間などを利用して現場で学べる工夫を重ねて検討していくといい、「長い目で見た教育体制を整える必要がある」と話す。

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