人工呼吸、心臓マッサージはOK?感染回避する「コロナ時代の蘇生法」


 病院外で急に心臓が停止して倒れた人は、全国で年間に約2万5千人(2018年)。公共施設などで自動体外式除細動器(AED)の設置が増え、機器の使い方や救命処置を学ぶ市民向け講習会は、習熟を図る貴重な場だ。新型コロナウイルスの影響で中止になっていた講習会も各地で再開し始めたが、その手法には変化も出ている。感染回避を念頭に置いた“コロナ時代の蘇生法”だ。

 福岡市東区の福岡和白病院に勤務する泌尿器科医、吉田毅さん(48)は2月中旬、市総合体育館で職場の仲間ら10人とフットサルの練習中、突然意識を失い、倒れた。呼吸は止まっていたという。

 一緒にプレーしていた同病院事務の山本聖(たかし)さん(36)が、119番。体育館にあったAEDを使って電気ショックを与え、ほかの同僚と交代で心臓マッサージを続けた。12分後、救急隊が到着。吉田さんは病院搬送後に手術を受け、3日後に意識を取り戻した。急性心筋梗塞だったという。3月16日に後遺症なく職場に復帰した吉田さんは「生きているのはチームメートのおかげ」と感謝した。

 福岡市内でAEDが設置されているのは、公共施設を中心に約千カ所に上る。同市内で「一般市民に目撃された心肺停止の傷病者」は昨年、150人を超えた。ただ、救急隊到着までにAEDが使われたのはその1割にとどまる。

 初めての救命処置で「頭の中が真っ白だった」という山本さんは、「AEDの講習を100回以上受けていた。おかげで、使い方は体が覚えていた」と振り返る。有用な道具も、使う人がいてこそ。市民向け講習会を開く意義でもある。

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 厚生労働省は5月、「新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた市民による救急蘇生法」の指針を公表。すべての心肺停止傷病者に感染疑いがあるものとして対応するよう明示した。  指針では、胸骨圧迫はウイルスなどを含む微粒子を発生させる可能性があり、傷病者の鼻と口にハンカチやタオルなどをかぶせるとの手順を指示。成人の心肺停止では人工呼吸は行わず、胸骨圧迫とAEDによる電気ショックを実施、といった具合に処置についても選別された。迅速さや適切な手順に加え、救助者自身の感染回避が求められる。

 佐賀広域消防局や長崎市消防局は今月上旬、市民向けの救命講習会を再開。両消防局の担当者は「鼻と口にハンカチなどをかぶせるよう指導している」「人工呼吸は職員のみが実演している」などと説明した。福岡市消防局も7月1日に再開する見通しだ。

 一方、救命講習会の中止を続けている病院などもあり、“新蘇生法”の周知はこれからだ。日本AED財団(東京)の宮垣雄一さんは「救命処置できる市民が増えれば、もっと助かる命がある」とした上で、「これからの救急救命講習はコロナと共生していく工夫が必要になる」と話した。 (大淵龍生)

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【ワードBOX】1次救命処置

 市民が行える1次救命処置には、胸骨圧迫や人工呼吸による心肺蘇生、自動体外式除細動器(AED)を用いた電気ショックなどがある。AEDは、心臓に電気ショックを与えて正常な拍動に戻す医療機器で公共施設などに設置されている。福岡市によると、AEDがある市内の施設数は2019年度末に1036カ所(届け出分)で、4年前から68カ所増えた。福岡市内で「一般市民に目撃された心肺停止の傷病者」は19年が151人(速報値)を数え、救急隊到着までに心肺蘇生が施されたのは70・9%(107人)、そのうちAED使用は11・9%(18人)だった。

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