人工肺、800床メドに体制強化 厚労省が研修事業


厚生労働省は新型コロナウイルスの重篤患者に使う体外式膜型人工肺(ECMO=エクモ)について、取り扱える医療従事者を増やす研修事業を始める。エクモは救命の「最後の砦(とりで)」とされるが、肺炎治療での使用経験者が少なく、現状では同時に利用できるのは300床程度とみられる。同省幹部によると、研修事業などで当面800床をメドに体制強化を目指す。研修事業は政府が取りまとめる緊急経済対策に盛り込む。実際の研修はエクモの臨床経験が豊富な約60人の医師で構成するグループ「エクモネット」が担う。エクモは患者本人の肺の機能を利用する人工呼吸器と違い、体外の装置で血液に酸素を加えて肺の機能を代替する。肺を休ませ、免疫機能が働き始めるまでの時間を稼ぐ。3月30日までにエクモネットに集まった新型コロナの症例では、エクモの治療患者40人中、19人が重篤状態を脱した。エクモは日本では心臓手術の際に利用することが多く、肺炎患者の治療経験がある医師、看護師は多くない。エクモネットの2月の調査では、全国で1255台の待機中のエクモがあるが、同時に利用できるのは約300床とみられる。予備として空けておくエクモが必要なことに加え、経験豊富な人材が足りないためだ。新たに始める研修事業は、心臓手術でのエクモの利用経験がある救急救命センターや集中治療室(ICU)の医師や看護師らが対象。1日程度、肺炎治療での活用法を学んでもらい、その後も必要に応じて各医療機関にエクモネットから人材を派遣しサポートする。厚労省は集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で発生した重症者の中でエクモを利用した割合を基に、ピーク時には全国でエクモ治療が同時に800床程度で行われることを想定し、準備を進めている。同省幹部は「粗い試算だが、ひとつの考え方の目安」と話す。同省は研修事業や、重症者を集中的に治療する病院の設定、メーカーへの増産要請などで、利用可能な病床の引き上げを目指す。もっとも、欧州並みのオーバーシュート(感染者の爆発的急増)が起きれば、800床をはるかに上回る重篤患者が出る可能性がある。政府の専門家会議はオーバーシュートを防ぐため外出自粛などを求めているほか、医療機器の大幅な不足などの事態に備え、改善が望めない人の治療を中止するといった「命の選択」をするための議論を始める必要があるとしている。

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